思考の連鎖Chain of Thought

答えを出す前に途中の手順を一つずつ踏む方式

ポイント
  • 思考の連鎖は答えをすぐに出す代わりに、途中の段階を一つずつ踏んで答えにたどり着く方式です。
  • 途中の段階を頭の中ではなく文字に出すことが要です。出した分だけ計算する余地が生まれます。
  • いくつもの段階を踏まなければならない問題で正解率が上がります。代わりに答えが長くなり、遅くなり、費用も増えます。
  • プロンプトに一行足すだけでもよく、うまく解いた例をいくつか見せてもよいです。
  • 最近の推論モデルはこの過程を自分で長く踏み、その過程をユーザーには畳んだり要約したりして見せます。
目次

1たとえで理解する

ビリヤード台で狙う球がほかの球にぴったり隠れていると、まっすぐ突くことができません。そんなときはクッションを一度当てて回り込む道筋を目で描きます。ここをこの角度で当てればあの壁へ行き、そこから跳ね返って狙う球の横腹に当たる、という具合にです。一度で入れようとする代わりに、道筋を二つ三つの区間に分けるのです。

難しい問題をAIに聞くときも事情は似ています。答えだけをすぐに出せと言うと、隠れた球を無理に突くようなものでとんでもない方へ跳ねます。途中の地点を一つずつ踏ませると、区間ごとの距離が短くなるのでずっとよく当たります。こうして答えまでの道のりをいくつかの区間に分けて一つずつ踏んでいく方式が思考の連鎖です。

道筋を頭の中だけに置かず、キューで壁を確かめながら見る人のほうがよく入れるように、この方式も途中の区間を目に見える形に出すことまで含みます。

2くわしく

一度で突けない問題が別にあります

球がすっかり開けていればクッションを計算する理由がありません。そのまま突けば入ります。AIも同じで、ありふれたあいさつや事実を一行聞く質問には途中の段階は要りません。

問題になるのは条件がいくつも絡んだ質問です。値を求めたあとその値でまた何かを決めなければならなかったり、条件をいくつも同時に満たす場合を探さなければならなかったり、前後の文の関係を考えなければならない質問がそうです。こうした質問に答えだけをぽんと出せと言うと、それらしい形の答えが出てきますが、途中を確かめていないので合うこともあれば大きく外れることもあります。

段階に分けると各段階はずっと単純になります。前の段階で決まった値が次の段階の出発点になるので、モデルは毎回短い距離だけ当てればよくなります。

途中の過程を外に出すことが要です

AIはここまで積み重なった文章を見て次に来る断片を一つ選ぶことを繰り返します。答え一つだけを書けと言えば、その一回の選択で終わりです。反対に過程を書かせると、過程そのものがまた入力として入っていきます。前に書いた途中の結果が次の計算の足場になるのです。

キューで壁を確かめる動きと同じです。確かめるその瞬間があるから角度が定まります。途中の文を書いている間、モデルも自分がついさっき決めた値をもう一度読んでから続けます。

だから「頭の中だけで考えて答えだけ言って」と言うと効果がほとんど消えます。表に出た文字がそのまま作業場なので、その場所をなくせば計算する場所もなくなります。

頼み方は二とおりあります

いちばん簡単な方法は質問の終わりに一行付け足すことです。「段階を分けて一つずつ解いて」のようにです。例を一つも与えずに指示だけをする方式なので、付け足す手間がほとんどありません。

もう少し確実な方法は、うまく解いた例を二、三個先に見せることです。似た問題をどんな順序でどれくらい細かく分けて解いたかを見せると、モデルがその流れに沿ってきます。ほしい形式が決まっているときに特によく効きます。

解く順序をあらかじめ指定する方法もあります。「まず条件をすべて書き出し、それから一つずつ当てはめ、最後に答えを一行でまとめて」のように、区間を直接区切ってあげるのです。確認が必要な業務ではこの方式のほうが結果を確かめやすいです。

長く考えたからといつも良いわけではありません

段階を踏むと答えが長くなります。長くなった分だけ時間がかかり、プログラムから呼び出すなら料金も増えます。短く答えてもよい質問にまで毎回過程を付けると、読む側が疲れるだけです。

もっと気をつけるべき点は、間違った途中段階がそのまま次の段階の足場になることです。最初の区間で壁を読み違えると、そのあとの計算がどれほど滑らかでも、すべて外れた場所に転がっていきます。過程が筋道立って見えるせいで、かえって間違った答えのほうが信じやすく見えることもあります。

だから大事な計算では過程を一度見直したり、同じ問題を何度か解かせて答えが割れるか確かめたりするほうがよいです。

最近のモデルは自分で踏みます

以前はユーザーが「段階ごとに考えて」と頼む必要がありましたが、最近の推論モデルは難しい質問を受けると勝手に長い過程を踏みます。いくつもの筋道で解いてみたあと、自分で見比べて一つを選ぶこともあります。

このとき踏んだ過程を画面にすべて見せるわけではありません。畳んでおいたり短く要約して見せたりするサービスが多いです。答えが出る前に「考え中」という表示がしばらく出るのがその時間にあたります。

だから最近は過程を頼むことよりも、どこまで詳しく見るかを決めてあげることのほうが大事になりました。簡単な質問には短く、複雑な質問には十分に時間を使わせるように選ぶ形です。

3もう少し正確に

思考の連鎖は、モデルが最終的な答えの前に途中の推論の文を生成するよう促すプロンプト技法です。モデルの構造を変えず入力だけを変えて性能を引き上げるため、同じモデルでも聞き方によって正解率がかなり変わります。ただしこの効果はある程度大きなモデルではっきり現れ、小さなモデルでは過程を長く書かせても得られる利益が大きくない場合が多いです。

たとえがずれる点もあります。ビリヤードは球が壁に当たれば物理法則どおりに転がるので、道筋を正しく描けば結果が付いてきます。モデルの途中段階にはそういう保証がありません。書かれた文はあくまでそれらしい次の文にすぎないので、表に書かれた過程とモデルの中で実際に起きた計算はいつも一致するとは限りません。答えは合っているのに過程がおかしかったり、過程はそれらしいのに答えが間違っていたりすることが両方起こります。過程を確認の根拠として使うときはこの点を踏まえる必要があります。

4やってみる

5よくある誤解

  • 画面に書かれた過程がモデルの本当の胸のうちだと思われがちですが、実際にはその文も生成された結果にすぎず、内部の計算とずれることがあります。

  • すべての質問に段階的な思考をさせれば良いと見なされがちですが、実際には簡単な質問では答えが長くなるだけで時間と費用が増えます。

  • 過程が筋道立っていれば答えも合っていると信じがちですが、実際には最初の段階が間違っていると、その上に積まれた滑らかな説明がまるごと間違った答えにつながります。

7ひとこと要約

つまり思考の連鎖は隠れた球を無理に突く代わりにクッションを経て回り込むように、答えまでの道のりを途中の段階に分けて一つずつ踏ませる方式です。

誤りや、もっと良いたとえがありますか? 修正を提案する · 最終更新2026-09-02