スペクトログラムSpectrogram
音を目で見えるように描いた図
- スペクトログラムは音を目で見えるように広げて描いた図です。横は時間、縦は高さ、濃さは強さです。
- 短い断片ごとにその瞬間にどの高さの音がどれだけ含まれているかを測って縦一列に並べ、その列を時間順に並べます。
- 文字起こし、音の高さの検出、音源の分離、音を作る作業はすべてこの図の上で行われます。
- 断片を短く切ると時間ははっきりしますが高さがぼやけます。両方を同時にはっきりさせることはできません。
- 図には落ちる情報があるので、この図だけから元の音をそのまま復元することはできません。
目次
1たとえで理解する
古い図書館の引き出しには、資料ごとにカード一枚が挿してあります。カード一枚にはその資料の特徴が欄ごとに分けて書かれていて、カードを順番に並べておくと引き出しを開けたときに流れがひと目でわかります。一枚だけではたいしたことがないのに、並んで挿さった瞬間に読み取れる何かになります。
スペクトログラムも、こうして作られたカードの引き出しです。音をごく短い断片に切り、断片ごとにカードを一枚書きます。カードには低い音の欄から高い音の欄まで並んでいて、その瞬間どの欄がどれだけ濃いかを表します。このカードを時間順にぎっしり挿して横から眺めたものが、音の絵です。
2くわしく
波形だけを見てもわかりにくいです
録音ファイルを開くと出てくる波の形は、空気がどれだけ強く震えたかを時間順に描いたものです。音が大きいか小さいか、いつ始まっていつ途切れるかはここですぐわかります。
ところが肝心のことはよく見えません。低いうなりなのか高い金属音なのか、人の声なのかドアが閉まる音なのかは、波の細かさに埋もれています。複数の音が重なるとその波が一本の線に合わさってしまい、いっそうわかりにくくなります。
だから音を扱う作業の多くは、波形をそのまま見るのではなく、高さごとに分けた図に移してから始めます。
短い断片ごとに一枚ずつ
音を丸ごと置いて高さを測ると、曲全体にどの音があったかしかわからず、いつあったかは消えてしまいます。そこでごく短い断片に切って測ります。一断片はまばたきの何十分の一ほどの短さで、その中では音がほとんど変わらないと見なします。
断片ごとに低い欄から高い欄まで成分の強さを測ると縦一列が出てきます。断片を少しずつ横にずらしながら同じことを繰り返し、出てきた列を時間順につなぐと図が完成します。断片を重ねながらずらすので、つなぎ目がぶつぶつ途切れません。
欄の目盛りはふつう人の耳に合わせて調整します。人は低い方の小さな差はよく聞き取り、高い方の同じ差はあまり聞き取れないので、低い方を細かく、高い方を粗く分けます。
図の読み方
横は時間、縦は高さ、濃さは強さです。声はこの図で横に並んだ縞模様として現れます。一番下の縞が声帯が震える基本の高さで、その上に一定の間隔で縞が幾重にも重なります。歌で音を上げると、この縞模様全体が上に押し上げられます。
「ん」や「す」「つ」のような音は縞模様がなく、上の方が広くぼやけたしみのように見えます。手拍子やドアが閉まる音は縦に引いた線のように短く広く広がります。静かな区間はただの空欄です。同じ言葉を話しても人によって縞の間隔としみの形が違うので、この模様が声の指紋の役割をします。
細かさを選ぶと何かを失います
断片を短く切るほど、いつ何が起きたかがはっきりします。その代わり一断片に含まれる波が少なくなるので、高さの欄がまとまってぼやけます。逆に長く切ると高さはきれいに分かれますが、その中で音が変わった瞬間がぼやけます。
**両方を同時にはっきりさせることはできません。**何を見たいかによって選ぶしかありません。話し声を書き起こすときは音が速く変わるので短く切り、音楽の和音を調べるときは少し長めに切ります。
この図の上で作業が進みます
スペクトログラムに移すと、音の問題が図の問題に変わります。図で模様を見分ける方法はすでにたくさん積み上がっているので、それをそのまま持ってきて使えます。
文字起こしはこの図で発音ごとの模様を読み取って文字に移す作業で、音の高さの検出は縞模様の中で基準になる一本を突き止める作業です。音源の分離は重なった模様を楽器ごとに分ける作業で、音を作る側は逆にこの図を先に描いてから波形に変えます。
3もう少し正確に
作り方は、短い区間ごとに信号を切ってその区間の周波数成分を求めるやり方で、この過程は短時間フーリエ変換と呼ばれます。切るときは端をやわらかく押さえる窓をかけて、つなぎ目に生じる雑音を減らします。強さはそのまま使わず対数目盛で圧縮して表す場合が多く、大きな音と小さな音の差があまりに大きいので、そのまま描くと小さな音がまったく見えなくなるためです。欄の目盛りを人の耳の感覚にあわせて分け直したものをメルスペクトログラムと呼び、音声の分野ではこちらがずっとよく使われます。
たとえがずれる点もあります。図書館のカードは人が重要なものだけを選んで書きますが、スペクトログラムは決まった計算ですべての欄を漏れなく埋めます。その代わりカードに書かれないものが一つあります。各成分の波がどの地点から始まっているかは捨てられます。だからこの図だけから元の波形を蘇らせようとすると、抜け落ちた部分を推測して埋めなければならず、その役目を担うのがボコーダーです。
4やってみる
5よくある誤解
スペクトログラムが音をそのまま収めたものだと思われがちですが、実際には一部の情報が捨てられた要約なので、戻した音は元と微妙に違います。
録音ソフトの波形と同じものだと思われがちですが、実際には波形にはない高さの軸が加わった図です。
細かく描くほど良い図だと思われがちですが、実際には時間を細かくすると高さがぼやけるので、見たいものにあわせて選ぶ必要があります。
7ひとこと要約
つまりスペクトログラムは短い断片ごとに書いたカードを時間順に挿して作った音の絵で、音を扱う作業の多くはこの絵の上で行われます。
誤りや、もっと良いたとえがありますか? 修正を提案する · 最終更新2026-09-02